韓国・朝鮮の文化財を考える講演会
韓国の無形文化遺産と地域共同体 ―その取り組みと展望―
2023年3月4日(土)
 
*ポスター(QRコード付き)

【日時】 2023年3月4日(土)14:00~15:30
Zoomウェビナーによるオンライン講演会として実施します(要・事前登録)。

【講師】 野村伸一
1949年東京生まれ。韓国・全南大学校日語日文科助教授を経て、慶應義塾大学文学部で長らく教鞭を取る。現在、慶應義塾大学名誉教授。専門は、東アジア地域文化研究。『韓国の民俗戯』(平凡社、1987年)、『巫と芸能者のアジア』(中公新書、1995年)、『能楽の源流を東アジアに問う: 多田富雄『望恨歌』から世阿弥以前へ』(風響社、2022年)など多数の著書がある。

【参加手続き】 参加費無料、ただし3月2日(木)までに事前登録が必要です。
下記のウェブフォームまたはメールでの登録をお願いいたします。
開催日までに、事務局よりメールでウェビナーのURLをお知らせします。

・ウェブフォームでの事前参加登録は、こちら
・お問い合わせ [email protected](東京大学韓国学研究センター事務局)

【注意点】 ・本講座は、Zoomによるオンライン講座です。講座参加のため、事前にZoomのインストールをお願いします。→Zoomダウンロードセンター
・ Zoomの操作方法や接続不備については恐れ入りますが、 Zoomのヘルプセンターをご活用ください。

【主催】 東京大学韓国学研究センター

【後援】 韓国国外所在文化財財団

【講師から】
 わたしたちの眼前に「戦争」の語が現れ、日々、語られています。それは東欧だけでなく、東アジアにかかわることでもあり、それだけに今、平和の確立は分野を問わず、焦眉の問題といえます。人文学も然り、今回の話はその一環です。
 2003年、ユネスコ(国連教育科学文化機関)は「無形文化遺産の保護に関する条約」(無形文化遺産保護条約)を採択しました。2022年7月現在、締約国数は180[国連加盟国数193]。ほぼ全世界がこの条約を受容している。今や、「無形文化遺産」は人類の文化を考える上で不可欠のことばとなりました。
 この条約でいう無形文化遺産とは「慣習、描写、表現、知識及び技術」「それらに関連する器具、物品、加工品…文化的空間」であり「社会、集団…個人が自己の文化遺産の一部として認めるもの」をいいます(定義)。ここでは無形文化遺産の主体が社会(共同体 communities)、集団、個人という点が重要です。それは国家による認定、価値付け、管理、保全の対象(文化財)ではないということでもあります。
 ところで、日本と韓国では、この条約成立以前から、文化財保護法を制定し[日本1950、韓国1962]、文化政策の一環として文化財を規定、管理してきました。国は全国の文化財を調査し、等級付けし、最上位のものには「重要」「国家」の名を付けます。そして、この基準に従って目録を作り、その最上位のなかから選んだものをユネスコに推薦し、同条約に含まれる「無形文化遺産の代表的な一覧表」への登載を図ってきました[日本、韓国は各22件」。
 この目録の順位順に選ぶ方式は、スポーツ大会の代表銓衡過程に似ています。そしてその結果、自ずと「一覧表」登載件数を巡る競合が起こり、また国内的には(既存の文化財指定理由の踏襲による)不具合が生じています。これらは無形文化財と無形文化遺産の概念の混同によるものです。
 日本も韓国も、多数の「文化財」を擁し、それを無形文化遺産化してきました。そして2005年以降は中国が加わってきました[「非物質文化遺産」の選定、その膨大な目録から国家級のものをユネスコに推薦、現在(2022)、43件登載]。しかし、これらは国内の文化財を単に「一覧表」に加えただけのこと、それは国権、国威発揚の観点からなされていて、明らかに限界があります。
 根柢から見直しが必要です。ユネスコ憲章は前文で「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」といいます。そして世界遺産条約(1972)を補完する意味で、無形文化遺産保護条約(2003)を制定しました。後者は、文化の多様性の推進、「持続可能な開発を保証するもの」としての無形文化遺産の重要性の認識の上に立っていました。だが、現実には「無形文化遺産の衰退、消滅及び破壊の重大な脅威」に歯止めがかからないでいます。
 今はユネスコの理念に戻る必要があります。そして遺産の主体者である諸共同体、集団、個人は各自が自身の内なる「生きている無形文化遺産」を見いだし活用し、積極的平和を推進することが求められています。まずは韓国の諸共同体における無形文化遺産の現況を瞥見することから話をはじめたいとおもいます。